総務庁石川行政監察事務所行政相談委員機関紙『兼六』第64号(1999.9)に載せたものです。
わきまえる
内灘町 藤島学陵
1989年にNHK市民大学『生命科学と人間』で三菱化成生命科学研究所の中村桂子さんは
「細胞はふえることも大事ですが、止まること、必要なだけふえたら止まる制御が重要です。細胞自身にこのへんで止まらなければいけないという情報を受けとめる能力がある、いわば、細胞はわきまえて生きることを知っているわけです。がん細胞は、それを忘れた状態といえます。」
と述べている。
10年後の1999年、生命誌研究館副館長として中村さんはNHK人間講座『生命誌の世界』の中で、生命体の生きることの大切なこととして「ひたすら生きること」「わきまえて生きること」「よく生きること」などをあげておられる。体の中の臓器も、心臓は心臓、肺は肺、肝臓は肝臓、胃は胃、腸は腸としてわきまえてくれることが大切。癌細胞のようにわきまえないやつが出てくれば、そいつを含んでいる私という人間は死に至ることとなる。同様に地上の生物の中においても同じことが言える。人間は人間、犬は犬、魚は魚としてわきまえて生きることが全体のバランスを壊さずに、全体が生き残ってゆくことにつながると言うのだ。現代人は心は脳の働きだ、脳が死ねば心も消滅する、と考えてきた。
しかし、科学者である中村さんが『生命誌の世界』の中で
「脳は体を離れて体を支配しているものではなく、常に体からのメッセージを受けとめています。しかも体からのメッセージは、環境(外部の物質や光や他の生きものたち)からのメッセージを受けて出されたものなのです。・・・・心を脳の機能と言ってしまうことに抵抗が出てきます。脳もそれ以外の身体もすべて含めた私という存在の機能が心なのではないか。・・・・自分との間、犬との間、時には大事にしているお皿との間。お皿そのものに心があるとは思いませんが、私の心は自分とお皿との間にあると思えるわけです。」
とおっしゃる。
現代人に今まで蔓延していた浅薄な科学信仰に頼る生き方、わきまえることのない想い上がりは人間自身にとって危険な結末を招くことになるのではないか。
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