桜田淳子を起用してブロードウェイ・ミュージカル『アニーよ銃をとれ』をやるというのは好企画であった。
単なる、アイドル歌手から脱皮しようとしている桜田にとって、これは試金石であった。
結論から言えば、彼女はミュージカル・タレントとしての素質をこの舞台で証明して見せた。失礼ながら彼女にこれだけのアニーが出来るとは思っていなかった。嬉しい誤算である。
四人の小さな妹弟を引き連れてボロボロの衣裳に古ぼけたライフルを持って彼女が登場してきた瞬間から楽しさに引き入れられてしまった。野放図でビチピチした躍動感がある。
「勉強なんさしないがよ 別段不自由はしてねえようだが、あったりまえのことさー」
お馴染のナンバー「自然のままに」を子供達と歌った時、ああこれは成功だとすぐ思った。
浮き浮きする楽しさが最後まで崩れなかったのは立派である。
体もよく動くし表情もいい。乱暴なしゃべり方がまたファニーな魅力でかわいらしい。相手役のフランクは童顔のあおい輝彦でお似合いのコンビだ。全体的にかわいらしく、少々子供っぽい感じで仕上がったが、これはマイナスではない。
野育ちの銃砲の名手アニーが、射撃ショーの花形に恋をするが、二人はすぐ喧嘩してしまう。やっとアニーは自分が男のプライドを傷つけていたことを悟り、射撃競技に負けて恋を得るという話。映画もべティ・ハットンの主演で日本で公開されているし、江刺チエミと宝田明で上演されたこともある。比較的日本で馴染のあるミュージカルである。「ショー・ビジネス」「恋はすばらしい」などのミュ,ジカル・ナンバーもよく知られていて親しみの持てるのもプラス材料だろうが、桜田がそれらを魅力たっぷりに聞かせてくれる。
妹弟に歌って聞かせる「お月さまの子守唄」や先の「自然のままに」などのコミック調の歌が特にいいが、フランクとアニーが自分の考えている結婚式の夢を歌いあげる難しい二重唱「オールド・ファッション・ウエディング」をしっかり聞かせて、歌唱力の点でも単なるアイドル歌手でないことを実証した。
第一幕の終わりで、スー族の酋長の養女になる儀式で「あたしもインディアン」と表情豊かに踊る場面も魅力があった。
ここではインディアンの群舞が迫力がある。どちらかと言うとダンスナンバーが少ないミュージカルだけに、この場の成否は舞台の印象を大きく左右するのである。出演者全員がけいこをよく積んだ成果を見せて、難しい振付けをこなしていた。
桜田を助けて脇を固める人達も腕達者である。チャーリーの左とん平も、あまりやり過ぎずに好感が持てたし。池田鴻のバッハロー・ビル、ハナ肇のシッティング・ブル、それに車山規子のドリーも演技力の向上がわかる。
むろん作品のよさに負う所が多いのは言うまでもない、よく出来たミュージカルだと思う。一九四六年の初演台本によらず、六六年の再演によった台本で、ストーリィがアニー中心にしぼられているのも簡潔でいい。
極彩色のミュージカルで、こういう派手な明るさが売りものの舞台は、やはりブロードウェイ・ミュージカルのよき一面であろう。新しい作品もどんどん生まれているが、こうした昔のミュージカルも又捨て難い。八十年代はミュージカルの年と言われる。早く日本にもいいミュージカルが生まれるといいと思うのは毎度のことである。
この一作で桜田淳子を、すぐミュージカル・スターとしてあげつらう訳ではないが、少なくともその可能性は大であると思う。
彼女の個性は歌だけでは生きないようである。いい作品を与えてやりたいものだ。
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