格式のある古風なたたずまいの本家、モダンな洋風の分家。対照的にがっちり飾った二つの家を回して谷崎潤一郎の華麗な「細書」の世界が描かれる。
菊田一夫の脚本を堀越真が潤色、水谷幹夫演出による舞台が、骨組みのしっかりした
ドラマに仕上がった。
大阪の船場で伝統ののれんを誇る木綿問屋・蒔岡商店に葵しい四姉妹がいて、二女の幸子(新珠三千代)は分家して芦屋に、本家を継いだ長女の鶴子(淡島千景)が三女の雪子(多岐川裕美)四女の妙子(桜田淳子)と住んでいる。
昭和十二年春から十四年春まで、その四姉妹の身辺になにが起きたのか、新しい取引に手を広げて倒産した本家、電子の見合い、妙子の家出といった話が次々に出てくる。
ことごとに家柄を口にする気位の高い鶴子、おっとり構えた幸子、気が弱そうでシンの強い雪子、現代風にいえばとんでいる妙子、性格は違うが柄にはまった四女優が優雅にのびやかに働いた。
淡島と新珠がさすがと思わせたのは当然として、多岐川、桜田もすなおに芝居にとけ込んで舞台女優の素質をのぞかせた。
共通してよかったのは境遇に変化があっても、からだに船場の娘の品をいつも失わなかったこと。
戦時という背景があるはずなのに、生活ぶりは別世界のごとくそのにおいがない。しめくくり近く、ふっと思い出したように出征兵士を送る声を聞かせて時代を出し、それぞれを新生活に向けて立たせる。
その終幕、舞台の奥にいた四人が横一列に並んで前に出てくる。背後の桜にうつる着物の配色が鮮やかだ。
淡島と新珠の表情が美しく豊かで、多岐川と桜田の若さが輝き、客席から嘆声がもれる。このあたり芝居運びの段どりがうまい。
妙子にふられる啓ぼんの大和田伸也が新しい役柄にふみ出した。船場育ちがはしはしにちらついて、イヤ味になりきらなかったのがいい。(依光 孝明)
−−−二十九日まで
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