<<< 『夜道』 >>>


夏の都会の夜 独り歩く
緩やかな坂を下る どこまでも

夜気が肌に涼しい
街灯のはぜる音がかすかに聞える
真っ黒なビルの向こうに満月が昇っている
淡い月の光が街を照らす

夜気が肺を満たす
遠く車の走る音が聞える
喧騒を離れ静まり返った街並みが郷愁を誘う
夜の静けさで街は眠る

いつかテレビで見た高度成長期の街
今はその名残がかすかに感じられる
加速する時代に取り残された空間

夜気が 音を 時を 心を 奪う

横に道が見える 行ってみよう
その先は 家と家に囲まれた袋小路
街灯が大きな影を作りだす 静寂の空間
全く音が聞えない 何も動かない
耳がキーンとなり 時間が止まった
悦楽に似た無の時間を過ごし それた道を戻った

いつまでも静寂は続かなかった
道の終点 黄色と黒色の壁 赤く回る光 熱い騒音
いま来た道を 引き返そう
今度は上り坂 坂を登らなければならない

引き返さなければならない・・・のか



REVENIR