都会の光がまるで海のような夜の空間。小さな希望の灯をまとって飛び立つ翼。“日が昇るとわたしが乗ってるのね・・”そんな事を考え、遠くを見つめていた瞳を呼び戻すと、窓ガラスに映る見慣れた横顔。
まっすぐに見つめ返せない自分がとてもくやしくて・・・この国で過ごす最後の夜。それなのに言葉が出ない。伝えたい言葉が胸にあふれているのに・・・
言葉にしようとする度、喉下に込み上げてくるあついかたまり。こらえきれず、頬を伝う想い。決して涙を見せないと、、そう思っていたのに。互いの時が過ぎていく。
“夢をあきらめたら、違う未来が生まれるの?”そう自分に問い掛ける。
朝の光が白く眩しい。もう後戻りはできない。不安はあるけれども。
旅立ちを知らせるアナウンスに背中を押されるようにして不安な思いも断ち切った。どこまでも広いエアポートのロビーであなたしか感じることができなくなった。あなたがそっと右手を差し出し云った。「君ならできるさ・・・」
あなたの瞳を見つめると、あなたの愛が痛くて涙が溢れてくる。何も云えずうつ向いたまま背を向けた。「ありがとう・・・」と、素直に云いたかった。
そして心に誓った。また逢えたら、あなたの知らない、もっと輝いているわたしになろう。その時には泣かないで、笑えるように。今の自分の気持ち、ごまかさず、歩き出そう。
幾度もの挫折を味わい、わたしの希望の灯火が何度も消された。考えるたびに、倒れそうになるくらいの悲しさとくやしさに、涙が頬を伝った日々。それでもわたしはここにいる。
この国に渡って出会った人達、愛する人達がわたしにくれる優しさ、そして勇気。どんなに打ちのめされ、傷つけられてもその気持ちがあるから、希望を信じて夢を追いつづけてゆける。
そしていつか、陽のあたる場所に出てかけがえのない喜びに満ち溢れたい。そして・・・
今日久しぶりにあなたのことを思い出した。涙を隠すことが精一杯で何も云えなかった自分。別れ際に云ったあなたの言葉を想いだす。「君ならできるさ・・・」
あの時、あなたの言葉が胸に痛かった。あのままあなたのもとに引き返してしまいたかった。
淋しさとつらさに幾度も悩んだけれども、ここまで来れたのはあなたの優しさに勇気づけられたから。その気持ち、無駄にはしたくない。
自分の夢を叶えたいから、あなたの優しさに応えたいから・・・
わたしは今、希望の丘にいる。広く青い空、緑の草の匂い、優しくなびく風。自然いっぱいの空気を感じ、大きな希望の明日が見え始めた。
そしていつの日かあなたと再会したら、あの日云えなかった気持ちを伝えたい。「ありがとう」と・・・
君は僕より夢を取ったんだね。君はもうここには帰らない。でも、その心の奥にある気持ちは痛いほど解るよ。さよならを云えなかった君のつらさを。
君がいるはずの朝のバルコニー。光だけがせつなく、優しい風がカーテンを揺らす。白い世界が音もなくかすんでゆく。
ふとした時、涙が出てくる。その涙で君が帰ってくるはずないのは解ってる。無理に笑おうとしてみたけれど正直、君への気持ちで哀しい自分が見えてくる。君の優しい笑顔がほしいよ。ほしくてたまらないよ。
君の夢と、僕の君への気持ちで苦しかったんだね。夢だけは捨てられなかった君。あの恋は嘘でなかったよね。淡い光が眩しいこの季節。夕日が眩しい夏の浜辺。君といた夏を想いだし、今日から少し元気になろう。君ならできると僕は信じているから。このさよならは、いつか光るはずだから・・・
君といた瞬間が還らないなんて思わない。君の夢とひきかえに君を失ったなんて思わない。
言葉にできないほど、君を愛したんだ。そんな自分が僕は好きだ。明日からは夢だけがすべて。
君の夢が僕の夢なのだから。永遠にねむる君と僕。
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